1:1台本 感動
鈴村 かすみ(すずむら かすみ):女(22)
純粋 花屋に勤め花が好き 幸せを売りたいと思っている。
斎藤 結城(さいとうゆうき):男(25)
いつも花を買いに来る客 鈴村の花言葉の知識に尊敬を抱いている 真面目。
鈴村:♀
斎藤:♂
斎藤M:「その日は、付き合って2年目の記念日だった。
いつもの場所で、待ち合わせをしていたのだが、
いつもなら、15分前に彼女は来ているのに現れない。
予定時間を過ぎても姿を見せなかった。
その日に限って全く連絡がなかった。
また、当時の記憶を思い返す…」
鈴村:「あっ。こんにちは。斉藤さん、
よくお店に来てくださる、斎藤結城さんですよね?」
斎藤:「ん?君は確か…花屋さんの鈴村さんだったかな?
考え事をしながら、歩いていたせいで、全く気が付かなかったよ。」
鈴村:「はい、そうです。鈴村かすみです。名前、覚えていてくださったんですね。
こんな街中で出会うとは思ってもいませんでした。
彼女さんが、あんなことになり…どう言葉をかけていいか…」
斎藤:「いや、気にしなくても…と言っても難しいか…」
斎藤M:「あの日、最愛の彼女は事故に遭って、遥か遠くへ行ってしまった。
彼女との待ち合わせ時間から、ちょうど30分が経とうとしていた頃だった。
彼女の親からの突然の着信。
トラックが、彼女の命を奪ったというのだ。原因は居眠り運転……
病院に駆けつけたのだけれど、時間は待ってはくれなかった。
あれから2年の月日が経ったが、僕はずっと悲しみの淵に立っている。」
斎藤:「君があんなことになったのは…僕のせいなんだ……」
鈴村:「あの、出勤時間まで、まだ少し時間があるのですが、
そこの喫茶店で、お茶でもいかがです?
お話を聞くだけでも、
斉藤さんの気が、楽になるんじゃないかって、ずっと考えていたんです。」
斎藤:「いいのかい?いろいろ考えてくれて、ありがとう。
僕も時間はあるから、せっかくなのでぜひ。」
鈴村:「悲しい出来事でしたね…。どう、お言葉をかけていいか、悩んでいたんです。」
斎藤:「今はもう立ち直っている。といえば嘘になるね。
やっぱり、当時の記憶が離れないよ。
時間を変えていれば良かったのかと、自問自答を繰り返してしまってね…」
鈴村:「斉藤さんも、彼女さんも、何も悪くはないんです。
罪を償うのは、トラックの運転手なんです。
悲しみを背負わされた、斉藤さんと遺族の方々の気持ちは、測り知れません…」
斎藤:「僕は彼女を心から愛していたんだよ。
2年間、毎日毎日電話もしたし、予定を合わせて会ったりもしていた。
実はね、将来的には、結婚するという話も出ていたんだよ。」
鈴村:「そうだったんですか。そこまで話が、出ていたんですね。
じゃぁご家族の方とも面識が?」
斎藤:「ああ、あったよ。一緒に食事に行ったりもしていたしね。
だから余計にショックだった。
あの頃の彼女の嬉しそうな笑顔が、脳裏から離れなくてね…」
鈴村:「そこまで深いお付き合いだったのですね。
あっ、深く聞いてしまってすみません…」
斎藤:「いや、いいんだよ。こういったことは、ずっと誰にも話せなかったけれど、
遅かれ早かれ、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。」
鈴村:「そうでしたか…余計に、傷つけたのではないかと、心配になりました。」
斎藤:「君のおかげで少し、心のつかえが取れた気がするよ。ありがとう。
時間大丈夫かい?少し話しすぎたようだ。」
鈴村:「あっ、もうこんな時間。行かないと。お話の途中ですみません。」
斎藤:「いや、いいんだよ。時間のこと気にしていなかったんだね。
ここのお代はいいから、お仕事頑張って。」
鈴村:「それは悪いです。」
斎藤:「心の内を聞いてもらった、少しのお礼さ。後で店に寄るよ。」
鈴村:「わかりました。ごちそうさまです。ではその時に、お礼をさせて頂きます。」
斎藤:「楽しみにしておくよ。聞いてくれてありがとう。それじゃ。」
鈴村:「はい、失礼します。」
鈴村:「いらっしゃいませ。どの様なお花がお好みですか?
こちらで花言葉から、お選びいたしましょうか。
結婚記念日でしたら、そうですね…1番人気なのは、薔薇ですね。
色によっても意味が変わりますが…
薔薇にされますか、かしこまりました。
お色は赤がいいと思いますよ。
花言葉に、「情熱、美貌、あなたを愛する」、というのがありますので。
本数ですが、11本が宜しいかと。「最愛」という意味になります。
では、可愛くラッピングしておきますね。
お手紙も添えてあげると尚、喜んでいただけるかと思います。
また来てください。ありがとうございました。」
鈴村:「いらっしゃいませ。あっ、斉藤さん。先程はどうも。」
斎藤:「さっきは、ありがとう。花言葉、詳しいんだね。感心したよ。」
鈴村:「いや、それほどでもありませんよ。あっ、そうだ。プレゼントがあるんです。」
斎藤:「プレゼント?」
鈴村:「私からなにか、気の利いた言葉をかけれたらいいのですが、出来なくって…
お花に代弁してもらったんです。」
鈴村:「これです、この花の名前はヒペリカムです。
こちらをラッピングして、プレゼントします。受け取ってください。」
斎藤:「本当にいいのかい?ありがとう。」
斎藤:「ヒペリカム、か。聞いたことない花だな。
さっき花言葉って言ったよね。何の意味が込められてるのかな?」
鈴村:「この花の花言葉は、「きらめき、悲しみは続かない」
といった意味が込められています。」
斎藤:「きらめき、か。忘れかけていた言葉だな。」
鈴村:「天国にいる彼女さんが、もしも、言葉をかけるとしたら、
どういう言葉をかけるか考えたんです。
それでこの花を選びました。心に響くといいのですが…」
斎藤:「悲しみ続けていては、何も始まらないからね。
天国にいる彼女も、きっとそう言うと思うよ。
なんだか、少し前向きになれた気がするよ。」
鈴村M:「彼女さんもきっと、この花言葉のようになるよう、願っていますよね。
あなたの心が花とともに、彼の心に届きますように。」
斎藤M:「なぁ、君も天国でそう願ってくれているのかな。
僕には今、絶望と悲しみしかないよ…
でも、この花言葉が、君が届けてくれた最後のプレゼントなら…
前向きにならなきゃな。」
斎藤:「あの…事故現場に行ったことがなかったのだけど、
花を手向けにいきたいんだ。何か、花言葉で心を届けられる花ってあるかな?」
鈴村:「あの場所へ行かれるのですね。
事故現場に行くことは、大変、辛いことでしょう。大丈夫ですか?」
斎藤:「うん。辛いことは分かってる。
だけど、彼女に一番近い場所のような気がするんだ。
だから、手向けに行きたいと思ってね。」
鈴村:「わかりました。花言葉から、選ぶとするなら…
白のカーネーションと、ワスレナグサと、キンセンカの3種類を選びますね。」
斎藤:「花言葉の意味を、聞いてもいいかな。」
鈴村:「白のカーネーションの花言葉は、
「純粋な愛、私の愛は生きています」という意味、
ワスレナグサの花言葉は、「真実の愛、私を忘れないで」という意味、
キンセンカの花言葉は、「別れの悲しみ、悲嘆、悲しさ」という、
それぞれ意味を込めてみました。」
斎藤:「今の心にぴったりだ。」
鈴村:「良かったです。私の心も一緒に届けてきてください。よろしくお願いします。」
斎藤M:「今から、君に一番近いところに行くよ。待っててね」
鈴村:「ありがとうございました。また来てくださいね。待ってます。」
斎藤:「必ず、来るよ。じゃぁまたね。」
斎藤:「今、君に会えれば、どんなに嬉しいか。考えただけでも涙が出るよ。うぅ……
でも、いつまでも泣いてちゃ、君も救われないよね。
でも自然と涙が出るんだ。許してくれ。
いつか必ず笑顔に、君に見せていたような笑顔になるから。
それまで、どうか見守っていてくれないか。
うぅ…今、やっと君に送れる言葉、君の死と、向き合えたからこそ言える事、
君の最期に、かけたかった言葉を、今ここでやっと言えるよ。」
斎藤:「心から、心から愛してる。生まれ変わってもまた出会おうね。ありがとう。」